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藤沢 周平
橋ものがたり

橋ものがたり (新潮文庫)

昭和58年発行。短編集。昭和55年実業之日本社から刊行されたもの。
解説は井上ひさし。

以前から、ずっと気になっていた作家だったが、時代小説が余り好きな方ではないので、二の足を踏んでいた。「たそがれ清兵衛」をDVDで見てからはますます読みたいとは思っていたが、手に入れようとせず、なぜか月日が流れ、最近、藤沢作品が次々と映画化されていくのに焦りを感じ始めた。もう読まなきゃ! とお尻に火がついたような気分になって、アマゾンを検索し手始めに「驟(はし)り雨 (新潮文庫) 」を読んだ。
期待通りの満足感☆
そして次に、「一茶 (文春文庫) 」を手に取り、未知だった時代小説の醍醐味のようなものを感じた。
三冊目が「橋ものがたり (新潮文庫)」 。
毎夜、ベッドに入ってから、一夜に一話くらいのペースで楽しんだ。
橋をめぐる様々な男女の織りなす物語。余り考えたことがなかったが、「橋」は人生の境界線でもあるんだ。三途の川に橋があるのかどうかわからないが、「あの世」と「この世」の境界線の象徴でもあるのかもしれない。
藤沢作品は、町の描写、人物の描写が実に生き生きとしていて、すんなりその時代の傍観者にさせてくれる。
悲しい結末あり、心温まるラストあり。「なぁんや、やっぱりその終わり方か」とはいかず、意表を突いてもくれる。
なんて素敵な作家だろう☆
内容と感想を忘れてしまうのが勿体ないので、久々に感想をアップする気持ちになった。去年の5月以来だ^^;(今日は2012年1月8日)。

「約束」
奉公に出ている幼なじみの男女が5年後に萬年橋で再会する約束をする。五年後の約束の日、幸助は時間より早く行って待っているが、お蝶は中々現れない。幸助もお蝶も5年の間に昔のような清らかで汚れを知らない子どもではなくなっていた。
これを読み始めて、0・ヘンリーの「20年後」を思い出した。幼なじみの男二人が20年後に会う約束をして、再会する話だった。でも、二人は余りにも違う立場になってしまっていた。
月日は人を変えると言うが、変わるのはその人。運命に翻弄されたなどと言ってはみても、やはり、それは人がひとつひとつ選択した結果なんだ。
気持ちはずっと変わらず思い続けていたとしても、違う人に身をまかせた相手を許すことができるものなのだろうか?

「小ぬか雨」
一人暮らしで履き物の店を営む独り身のおすみのところに、見知らぬ男が「かくまってくれ」と入ってくる。危険があるような男には見えない。おすみにはいいなづけがいる。おすみは、それほど器量がいいわけでなく、「恋」などとは無関係にくらしてきた。時折やってきては、女ほしさになぐさみもののよう抱かれる。それも仕方のないことだと思っていた。そんなときにおすみの人生に思いがけない息詰まるような日々が……。
一体、結末はどうなるものかと、わくわくしつつ、ページをめくった。代わり映えしない日常、結婚してもそれほどしあわせにもなれそうもない、期待できるような未来はないけれど、そこそこの生活はできる、そんな張り合いのない人生に飛び込んできた「いい男」でしかも自分を生まれて初めて「お嬢さん」などと呼んでくれる。
これはサギの話ではないけれど、結婚サギってそんな感じなのかもしれない。

「思い違い」
毎朝、毎夕、出勤前と帰宅途中に橋ですれ違う女性の顔を見られるだけで嬉しい指物師で働く豊治。彼は女郎屋で女に二の足を踏むという表情をされるようなこわい顔の男。女性にはまったく縁がなく、自分からどうこうしようなどとは考えたこともない。仕事はよくできる。親方から放蕩娘の婿に望まれるが、豊治は橋ですれ違い、ひょんなことから言葉をかわすようになった女のことが忘れられない。
見た目が悪く無器用だけど実直で誠実、そんな豊治の一途な思いにしんみりとした。

「赤い夕日」
夫に女がいるらしいと手代に囁かれた。呉服屋の嫁であるおもんは、嫁入りしてから少しも変わらぬやさしい夫を信じていたが、手代が店をやめさせられ、夫のことを嗅ぎ回っていたから首にされたのではと思い出す。そのとき、育ての父親が危篤だという知らせがやってきて、おもんは夫には内緒で育ての親の住む家に橋を渡って会いに行く。しかし……。

こんな短い話にいっぱいドラマが詰まっている。育ての父親の背中におぶさって見た赤い夕日は、おもんの幼いときの記憶に焼きついているのだけれど、自分の記憶であるかのように情景が浮かんだ。
本当の父親ではないけれど、大好きな父。浮気しているかもしれないけれど、はっきり夫に訊けない女心…。
人のしあわせを嫉み、博打に手を出し、堕ちていく男。そして粋でカッコイイ男☆

「小さな橋で」
広次は遊びたい盛りの少年。行々子(よしきり)が卵を産んだから近所の子どもたちと一緒に見にいきたい。暗くなるまで遊びたい。しかし 父親が出て行ってしまい、母親が夕方から働き、姉は米屋の手代と「できて」しまったから姉の勤めが終わる頃に迎えに行けと母親に言いつけられている。
子どもの広次が男女が「できる」とは、どういう意味かわからず、しかし、それがいけないことなんだとは感じているのが面白い。自堕落になりそうな母親がリアルで、子ども一人では家族を救うことができない無力さを感じつつもひねくれない広次が可愛い。不幸な家族の物語のようでそうでもなく、結末はオチになっていてにんまり笑ってしまった。

「氷雨降る」
妻と二人、懸命に身代を築いてきたつもりだった吉兵衛だったが、四十を半ば過ぎ、商売には成功したけれど、五十を過ぎたときには空しさばかりを感じるようになっていた。商売は息子にほとんど任せ、毎夜、飲みに出かけるようになった。ある夜、飲んだ帰りに橋に女がいた。思い詰めたような表情の女に身投げするかもしれないと話しかけ、泣きつかれて、行きつけの店に女を預ける。女はおひさという名前以外、何も事情を話さない…。
現代の家に居場所のない夫・父親のような吉兵衛。一生懸命に働いてきたのは何の為だったのかわからない。妻も息子も自分の意見には耳を貸さない。まだ健康な体はあっても、喜びを見いだせる物がない。そんな男性が美しく謎めいた若い女性に出会い、体も求めず、守ってあげる。
江戸版「容疑者X」みたいなものだろうか。
自分が誰かの役に立っているという実感、そして誰かが自分を大切にしてくれるという喜び。それが生きる喜びなのかもしれない。

「殺すな」
船宿の船頭をしている吉蔵は船宿のおかみのお峯と駆け落ちした。豊満な肉体と何事も思い通りに行動するお峯。最初は世間に隠れて暮らし、睦みあうのが楽しかったが、徐々にお峯が落ち着かなくなる。お峯は駆け落ちを後悔し、家に戻りたがっているんじゃないだろうかと、吉蔵は疑心暗鬼に…
二人の隣に筆を作っている浪人が住んでいて、浪人は喘息持ちなので、仕事をしていないお峯が浪人の世話を焼くようになるのだが、この浪人がキーパーソン。
男女の関係は難しい。二人が共に同じように二人の関係を大切にしているのなら、問題はないけれど、想いの天秤がどちらかに傾くと、たちまち関係はただの重荷か執着に変わる。
人生を狂わせた女と憎しみもわくだろう。

「まぼろしの橋」
五つのとき、橋のたもとで拾われたおはつは呉服屋の娘として育てられた。兄として慕ってきた信次郎と祝言をあげることになっている。しあわせな自分を思うと自分を捨てた父親はどうしているのかと気に懸かるようになっていた。やがて信次郎と夫婦になり毎日がまぶしいような幸福感に満ちた生活を送るようになる。そんなとき、おはつの実の父親と知り合いだったという男が尋ねてくる。

「吹く風は秋」
江戸から姿をくらましていた博奕打ちの弥平は、5年ぶりに江戸に戻ってきた。その日に女郎屋の前で夕日を眺めている女に出会い、一晩を過ごす。夫の借金のかたに身売りした女郎、おさよの身の上話を聞く。弥平は若い頃に一度、妻を娶ったが妻は24歳のとき病気で死んでしまった。おさよは妻に似ているというわけではないが、年のころは妻が死んだころと同じくらい。5年前にいかさまをやった賭場の親分に詫びを入れ、吉蔵はツボ振りをするが、足を洗いたい気持ちもある…。
五十代の男と二十代の女という組み合わせが多い短編集だなと思った。恋愛がらみだったり父と娘だったり、その関係はいろいろだけれど。どれも男は見返りを求めず、二十代の女性がしあわせになれるようにと身をくだく。
藤沢周平自身、何か思い入れがあるのだろうか。

「川霧」
蒔絵師の新蔵は橋で倒れた女を助け、一時自分の家で休ませてやった。自分は仕事に出かけ、隣の女房に頼んでおいた。名前も尋ねていなかった女は、新蔵が帰ってくる前にいなくなっっていた。女は半月ほどして礼にやっていきた。どこに住んでいるのかは言わなかったが、おさとという名と勤め先を教えられた。「まじめな若い人が来るような店ではない」とおさとに言われたが、新蔵は女に会いたくて行ってみる。
訳ありのミステリアスな美しい女性というのも、短編集に何度も出てくる。男に苦労をかけられひどい目にあっているがけなげに生きている女たち。やさしい心の持ち主の男が女を助けようと力になるが、たいした見返りは求めない、そんなパターンが多いかも。
パターン的には同じ部類かもしれないけれど、それぞれに違った情景、生活、江戸時代の職人の仕事が登場し、安っぽさは少しも感じない。ストーリーに没頭し、登場人物にどっぷり感情移入し、自分も江戸時代に生きているような錯覚を感じつつ読んだ。
どれもこれも映画化、ドラマ化できそうな話ばかりだけれど、誰かが演じてしまうのを見せられるより、本を読んで心の中で想像をふくらませ、自分だけの藤沢周平作品の世界にふけるのが楽しい。

藤沢周平 蝉しぐれ/

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